ことばのくさむら

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《著者便り》ふくもと まさお氏(2)

ベルリンから著者便り(2)ふくもとまさお
 

 
 岩波書店の雑誌『科学』6月号で、福島県とその周辺都県における死産と乳児(ゼロ歳児)死亡の推移をドイツの専門家と共同で時系列的に統計解析した結果を発表しました。解析では、厚労省の人口動態統計データを使いました。解析の結果、福島県とその周辺県で、2011年12月から死産と乳児死亡が増加していることがわかります。
 ぼくの本の中でも、厚労省の人口動態統計を使って時系列解析した結果を載せ、3.11後に日本で被曝による健康被害が見られることについて書きました。ただ本では、執筆時に人口動態統計の概数しかなかったので、それを解析した結果を暫定的に載せているにすぎません。
 人口動態統計については昨年秋に、2012年までの確定数が発表されています。ですから、最終的にはその確定数を解析しなければ正確な結果は出てきません。その確定数を解析した結果が『科学』で発表したものです。ですから、『科学』で発表したものはぼくの本の続きといってもいいものです。
 『科学』での発表後、ベルリンの日本人からは「よくやってくれた」とか「ありがとう」など、ポジティブな反響がありました。それに対して、日本からは「なぜ、そんなことをするのだ」、「静かにしておけ」などネガティブで、発表を批判するもののほうが俄然多かったように思います。
 日本からこういう反応が出ることは、ある程度予測はしていました。しかし、反原発運動をしている人や原発を批判的に見ている人などからも、そういう批判があったことは予想外でした。
 同じように3.11後の日本における被曝の影響について書いたぼくの本に対しては、これまで日本の読者からも、ドイツにいる日本人の読者からも予想以上にいい反響をもらっています。本では、チェルノブイリ後にドイツにおいて低線量被曝によって健康被害が発生している事実を少し詳しく書いています。そのドイツでの経験から、3.11後に日本において被曝の影響が発生していないのだろうか。それが、ぼくの本の1つの重要なポイントでした。ドイツでの経験からすると、日本で健康被害が起こっていても不思議ではないことがわかるからだと思います。
 日本での健康被害の状況は、今の段階でも時系列解析という簡単な方法で観察できます。もちろん、その方法には限界があるのも事実です。しかし、事実はできるだけ早く把握していかなければなりません。そのため、専門的に今可能な方法でできるだけ正確に状況を把握して、それが本当に被曝によるものかどうかしっかり議論していなかければなりません。それが、被曝を避ける方法だと思います。
 ただそうすることが、むしろ地元住民を不安にさせるだけだという人がいます。ぼくは、それはむしろ逆だと思います。できるだけ早く正確に事実を把握し、正確な情報を発信していく。それによって、危険が具体化していきます。危険が具体化すれば、危険をどう避ければいいのか判断できるようになります。それは、むしろ不安を和らげると思います。
 これは、ぼくがドイツでチェルノブイリを体験したことから学んだ教訓です。
 
*ベルリン@対話工房 www.taiwakobo.de
 
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ドイツ・低線量被曝から28年―チェルノブイリは終わっていない

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