ことばのくさむら

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《著者便り》第2回 市澤 秀耕氏

2013年3月に出版された、『山の珈琲屋 飯舘 椏久里の記録』(書き下ろし)の著者・市澤秀耕さんの便りです。
フクシマ過酷事故で全村避難となった飯舘村で、20年前に自家焙煎の珈琲屋さんを始めて、まさに山里の景観のなかでおいしいコーヒーが大人気だった「椏久里」。現在、福島市に避難中。
3年7ヶ月でようやく始まった、市澤家の現在の感想と除染報告を伝えていただきます。

 
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「福島から」                  市澤 秀耕
 
このブログに寄稿する提案を二つ返事で受けてから、ずいぶんと日にちが経ちましたが、ずっと気になっていました。
原発事故によって避難している身としては、回りに、書くテーマはいくらでもあると思い、気軽に引き受けたのでした。いざ何を書こうか想いを巡らすと、中途半端な掘り下げになるのではなかろうかなどと、あれこれ逡巡し手つかずでした。初めての著書となる『椏久里の記録』を出版してから、世にさらす文章を書くことに対して、ある種のためらいを覚えていたことも理由のひとつです。
さて、いよいよ書いてみようと着手しました。まず、なにをテーマにすべきか?思いつく言葉をメモしてみました。こんな言葉がメモされました。「除染」、「心境」、「未来あるいは今後」、「飯舘」、「珈琲店」。並べてみると、今の自分の気がかりが浮き彫りになりました。
現在の飯舘の状況から今後をどう見据えていくかということです。これからの生活設計とそれと不可分の土地利用(農地や山)が、頭の中でモヤモヤしています。
事故と避難から3年半が過ぎました。私は、福島県飯舘村で椏久里珈琲という自家焙煎珈琲店を営みながら、代々続く農業をブルーベリー園経営に転換している途上の事故でした。今は、避難先の福島市内で珈琲店を開いています。
10月下旬の現在、飯舘村で進められる環境省の除染作業はいよいよ勢いが増してきました。所用でたまに飯舘宅に戻りますが、作業員の多さと行き交うトラックや重機の作業風景のすさまじさは、驚くばかりです。
除染に関する所感のあれこれを口にすることは、もはや無駄なことに感ずるほどの勢いです。とにかく、住宅周りと農地の除染を一順させ避難解除という路線を、ただひたすらに突っ走っているように見えます。
除染を一順させ、早く次のステージを迎えたいという気持ちは、私にもあります。その段階を迎えたときにどんな身の振り方をするのか?「避難が解除されたら、帰るの?」、「帰れないよね?」というようなことを、ちょくちょく尋ねられます。最近は少なくなった避難者へのアンケートなどでも、同じような質問が必ずありました。こうした問いを受けるたび、私は、一瞬、答えに窮します。答えは「帰るか、帰らないか」の二者択一にはなく、別の答えが私の胸の中にあるからなのでした。
避難暮らしや避難解除後について、個々の事情や考え方はそれぞれ違います。近所の方や親しい友人たちとそのことについて話しますが、似たような境遇と考えであっても、微妙な個別事情の違いやそこから到達する選択肢を理解しあえたときには、安心、安堵します。心が開きます。
全体を俯瞰して避難に関する施策を進めることは大事です。同時に、施策を進める側が、虫の目になって一人一人の事情や苦悶をよく聞いて、わかり合うことの必要性を感じます。再生の施策は、政治行政の方針と被災者の声との両者から生まれるべきです。現状は、後者が不足しています。あまりに広範で多用かつ複雑な被害の今回の災害に、首長の意見聴取だけで対応策していては、被災者全体の声を反映しきれません。
除染の重機に乗っていれば、表土を綺麗に剥ぐことや周囲の障害物に絶対の視線と集中力が向けられるでしょう。この際に、重機の下敷きになる蛙やモグラやミミズの息吹に寄り添う心配りが、心傷める被災者には必要だと思うのです。
 
 
【写真説明】
我が家の除染の開始日は知らされませんでした。息子のコーヒー配達日による状況報告から推察するに、10月10日頃のスタートと思われます。送信した画像の撮影日は、宅内可燃ごみ収集があった10月21日です。終了まではおそらくあと1か月ぐらい要するのではないでしょうか。人数は15〜20名ぐらいの方が、我が家の除染に入っています。
先ず、標高の高いところ、自宅裏山の表層堆積物を手や熊手で剝いで、自宅駐車場(広場)に運び、そこでフレコンバッグに詰める作業をしていました。山は、もう一度表層部を取り除くそうです。同時に自宅前、県道北側のブルーベリーの草刈りをしています。その後、こちらも表土を剝いで、新しい土をかぶせる予定になっています。自宅庭なども未着手ですが、同様の工程を予定しています。
 
2014年10月21日(火)





ブルーベリー畑の草刈りの様子と草刈り後の状況です。
ピンクのテープは障害物の目印です。電線やアンテナケーブルなど、要注意箇所にマーキングされています。
 



駐車場で山から出てきた廃棄物をフレコンバッグに詰めています。
 

裏山の表層堆積物を剝いでいます。ビニールシートに載せて駐車場に運びます。
 

1回目の表層堆積物除去が済んだ裏山の状況です。
宅建物から20〜30mほど離れたところまでこのような状況です。
 

自宅東の山道です。ピンクテープは除染境界を示していると思われます。
 
2014年11月2日(日)
日曜日なので作業は休みでした。自宅に大きな足場が設置されていました。
ブルーベリー畑は草刈りの行程が済み、刈った草は片づけられていました。







自宅
 







 
2014年11月4日(火)
足場が設置された自宅と自宅東の焙煎工場の屋根及び外壁のふき取り作業が行われていました。
ブルーベリー畑では、スコップなどで厚さ5センチほど表土や堆積物を剥いで、一輪車で、剥いだ表土部分を私道トラック待機場所へ運び、そこでフレコンバックに入れて、トラックで運び出しています。




自宅
 








 
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《参考画像》以下の画像は言叢社の五十嵐が除染前の2014年7月に撮影したものです

飯舘村・市澤家
 

対面の、三角山
 

椏久里さんのブルーベリー畑 実った先から動物たちにたべられている。空間線量1.45マイクロシーベルト
 

住まいの前庭に建つ椏久里珈琲店
 

雨どいの下、約20マイクロシーベルト
 

雨どい
 

室内
 

掘りゴタツ
 

飯舘・椏久里珈琲店
 

店の中
 

休業のおしらせ
 

残されたまま
 

美由紀さん
 

 
 

動物たちの食べかすがちらかる
 

除染の土
 

 
 

除染が済んだ場所
 

除染中の民家
 

 
 

 
 

除染の村
 
 
 


山の珈琲屋 飯舘「椏久里」の記録

山の珈琲屋 飯舘「椏久里」の記録

 
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