ことばのくさむら

言叢社の公式ブログです

■「みちの会」のこと


 
 今回は、わたしどもの事務所のある東方学会本館2F会議室で催されている「みちの会」についてご紹介し、第五回めの発表になる「メキシコ研究報告」のことをおつたえします。
 昨年6月にはじまった「みちの会」は、言叢社の事務所がはいっている「東方学会」本館2Fの会議室を借りて、2ヶ月に一度、おこなわれることになりました。「東方学会」本館ビルは、大正関東大震災の直後に建てられ、倒壊を防止するために、栗の丸太を地下にびっしりと敷きつめ、当時の工法としては最新フロー構造の建物で、堅牢でクラシックなビルです。
 今回の会は、早稲田大学名誉教授・文化人類学者の蔵持不三也先生・武蔵大学教授ドイツ文化人類学の嶋内博恵先生を中心に、早稲田蔵持ゼミのお弟子さんだった方たち伊藤純さん・山越 英嗣さん・藤井紘司さん・松田俊介さんがコアになってたちあげられました。
 大学の教室をでて、一般の研究者や市井の興味ある方々に展き、長年にわたる研究テーマを現在の問題にさらしながら、街なかの神保町の会場で行なおう、という趣旨のようです。
 

 
●第5回研究会
山越 英嗣(早稲田大学非常勤講師)
★「越境する「先住民アート」
  ―「わざ」と「芸術」のはざまからアートの政治性を考える」
日時: 2018年3月31日(土)13:00〜
会場 :東方学会ビル2F会議室(千代田区西神田2-4-1)
 
「みちの会」のホームページ → みちの会
 

 
◆越境する「先住民アート」−「わざ」と「芸術」のはざまからアートの政治性を考える
 本発表において、「わざ」とは日常生活における創作活動を通じた実践のことを指し、「芸術」とはアートワールドを構成する諸アクターの力学を意味する。 本発表では、「わざ」と「芸術」のあいだにおけるせめぎ合いから「アートなるもの」が創出されることを、メキシコ・オアハカのストリートアートを事例として論じる。
 2006年の抗議運動でオアハカの町に現れたストリートアートは、メキシコの壁画運動に象徴されるナショナルヒストリーを脱構築し、これまで周縁化されてきた先住民/農民たちによる「別の歴史観」を提示した。やがて、「民主主義を実現するための抵抗のアート」を求める米国のアート市場は、それらをアートワールドへと組み込んでいった。しかし、ストリートアーティストたちはそれをさらに「わざ」へと転じることによって、地元の州政府との交渉の手立てとして用いていったのである。この一連のプロセスからは、グローバルな移動と美術市場の持つ権威に絡め取られることによって、 社会的意味を複層的に構成していく 現代の「先住民アート」の政治性が明らかになる。
 
■「みちの会」に先立つ「道の会」
 じつは、言叢社を立ち上げてすぐの1980年代のごく初期に、やはりこの東方学会の同じ会議室で、「道の会」という当時若手ばりばりの研究者たちがあつまる会がありました。大学の職についたばかりのかた、そして多くの方が本職が決まっていないけれど、熱い魂の集まった研究者の会でした。このときも蔵持不三也氏と、今は法政大学名誉教授となった陣内秀信氏(建築史)、九州大学名誉教授の関一敏氏が中心になり、いろいろな分野の時代のみずみずしい萌芽をかかえた強烈な方々をつれてきて、何時間でも議論がつづきました。
 参加されたのは、上記、蔵持不三也氏、関一敏氏、陣内秀信氏、多摩美術大学・芸術人類学研究所長の鶴岡真弓氏をコアに、ときに、かの存在者大月隆寛氏、著述家島田裕巳氏・文化人類学者の杉山裕子氏・日本の比較文化学者の佐伯順子氏などが参加され、またそれぞれの研究者が、時代のキワにたっている幾多の研究者をつれてきて、交錯しました。刺激的で楽しい研究会でした。
 ついせんだって、陣内先生は法政大学の最終講義をされ、たくさんの方々が参加されたそうですが、ご自身の研究歴をのべられたなかに、「道の会」の項があり、建築史の自分がその会でであった、「文化人類学」に影響をうけて、かの『東京の空間人類学』が書かれたのだと報告されていたとのこと、最終講義に出席した鶴岡真弓先生がつたえてくれました。
 また、昨年末に急逝された立命館大学副総長・副学長だった、文化人類学者・渡辺公三氏もこの会に参加し、それ以来の長い付き合いでした。別れは、あまりにも突然のことで、そのしらせから、もう2ヶ月余たちましたが、なぜなのかずーっとあとをひいて、彼のはなしがでるたびに、悲しい思いをしています。大学人として、大きな功績をのこされたのは、わかっているのですが、やはり、自身の最終の時間に立ち向かう放熱の道筋が、たちきられてしまったことへの痛ましさ、なのだろうかとも思っています。

 第1次「道の会」の方々は、みなさん、大学を退任されるころになってきました。
 たくさんの研究の時間が積み重ねられた果てに、どんな扉をひらいていかれるのか、ワクワクします。
 ボス・蔵持先生は、さまざまな体調を崩された時期をのりこえて、「今が絶頂」と大著にむかっていられます。5月には「みちの会」第6回目の講義をされる予定です。
たのしみです。(記・五十嵐)