台湾にふれて(7)〜台湾季語「売花」
台湾季語にとりあげられた植物名を以下に羅列してみます。
暖かい頃
おにたびらこ、兎草、オキザリス、一点紅、昭和草、一葉蘭、胡蝶蘭、報歳蘭、糸蘭、君子蘭、紅葱頭、蒜仔花、キャッサバ、満山紅、木棉花、含笑花、山桜花、苦桃、紅肉内李、仙桃、人心果
暑い頃
月桃、野あさがほ、月下美人、夜の女王、桜蘭、薑仔花、大谷渡、月来香、八角蓮、時計草、蛇瓜、ねなしかづら、はぜらん、つるらん、蓖麻、洛神、相撲草、薄荷、菜瓜、苦瓜、蒲仔、皇宮菜、九層塔、莧菜、番薯葉、蕹菜、竹筍、脚白筍、蓮子、白木耳、霊芝、竹蓀、榕樹、椰子、相思樹の花、鳳凰木、蛇木、林投、破布子、仙丹、苦藍盤、蘇鉄、仏桑華、野牡丹、茉莉花、番石榴、波羅蜜、蓮霧、マンゴー、木瓜、パイナップル、パンの実、竜眼、荔枝、ドリアン、アボカード、バナナ、台湾水蜜桃、釈迦
涼しい頃
鶏母珠、燈籠草、素心蘭、土豆、菱角、金針花、珍珠菜、芹菜、韮菜花、五年芋、草蝱、楓、木欒子、白千層、文旦、柳丁、金柑、蘋婆、紅柿、草橄仔
寒い頃
蒜仔、芫荽、紅菜、打某菜、茄茉仔菜、肉豆、皇帝豆、腰果、いかだかづら、山茶花、水筆仔、甘蔗、仏手柑、椪柑、桶柑、ザボン、桔仔、楊桃
鮮やかな色彩の花、可憐な花、分厚い葉肉の緑、それにたくさんの果実。解説を読みつつ、そのものの、眼触り、手触りの感触を味わってみたくなりますが、まずは想像だけでもたのしい。草木花の文化への作者のゆったりとした親しい距離感が読み手を安心させ、言葉の移ろいを賞味させる。果物はことに喰って心味したいと唾液がささやく。
でも、ここでは自然・植物の項ではなく、人事に配された「売花」をとりあげたい。台南のオランダ城塞を見学していた時、少女ではなく媼でしたが、「玉蘭(ぎょくらん)」を売っていました。玉蘭とは「玉山(ぎょくざん)」の花。戦前の日本語でいえば「新高山(にいたかやま)」の花。これはあまりよい言葉とはいえない。その香りのつよい白花を帽子につけて歩いていると、なにかすこし得意の気分になり、猫背の姿勢があらたまり、出会う人に微笑みかける自分を感じました。なるほど花を身につけるとはそういうことかと思ったのです。
下町育ちの親しくさせていただいている知人に佐藤宗太郎氏(写真集『石仏の美』の刊行にはじまりインド石窟寺院の写真集を刊行、さらに独自な宗教造形研究をおこなっています)と里見文明氏(佐藤氏の写真の師匠、石仏写真集を刊行)がいます。二人は子供の頃からの友人ですが、その里見氏が佐藤氏について、あいつは若い頃、夜桜見物で酒に酔い、下町の薄明かりの街を桜花の枝を背中に挿して戯れ歩きしていたと、よく話してくれました。花を身にそえると、そんな気分が増幅されてくるのでしょう。その花を床の間や軒下にそえると、家が華やぎます。身に飾るのと、家に生けるのとでは華やぎ方がすこしちがうのかもしれません。(S)
【売花(ベエフェー)】花売女(はなうりめ)・売玉蘭(ベエギョッラン)・売茉莉(ベエバンニイ)
古くからの台湾風物詩。少女または媼が街角に立ち、初夏から夏いっぱい香りの花を売っている。台湾の香りの花の多くは夏に咲き、色は白か黄緑で淡い。うち含笑花(ハムシャウフェー)(春)や夜合(ヤアハブ)(ともにマグノリアの属)、月橘(ミカン科)、樹蘭(センダン科)など多くは庭木に、月来香(グエライヒョン)(ヒガンバナ科)などは仏花に用いられ、町角で売られることはない。花売女が売るのはほぼ玉蘭(モクレン科)と茉莉花(モクセイ科)の二種に限定される。大きさが手頃で香りもよく、花もよく咲くからであろう。南国の夏は暑く汗をかきやすい。洗髪や入浴のあとに香りの花を髪に飾ることは婦女の嗜みでもあった。いわば香水でもあり、アクセサリーでもあった。今日ではタクシーの運転手がその一房を車内に吊ったり、出勤の女性が胸に飾ったりする。
花を売る武骨男の悲しき目 …李治香
売花の雨の宿りとなりにけり …石麗珍
売花や古都のたつきの鄙びたる …張清瑛
玉蘭や杯珓(はいこう)叶ふまで打てる …大矢静江
売花の笊に香りを広げたる …葉七五三江
玉蘭と媽祖様しづとおはします …呂_城
女手の多き旧家へ花売女 …陳淑媛
売花の昔雅びの鄙訛り …黄霊芝
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