ことばのくさむら

言叢社の公式ブログです

『愛という勇気』(4)

●10年ぶりに再刊した一冊の本
  
愛という勇気 -自己間関係理論による精神療法の原理と実践-』 
THE COURAGE TO LOVE(S・ギリガン著/崎尾英子訳)への招待(4)
   
  
  著者

   
   

   

   
★治療者は★
●心とは繰り返し壊されるためにあるのだ。ばらばらに破砕されるためではなく、さらに自分と世界との強められた結合に向けて開かれるのだ。苦悩が有効になされなければ、アイデンティティは硬化し、可能性は閉じられる。この本の多くの部分は、精神療法において有効に苦悩する意義に関する議論に当てられている。〈p.41〉
●二つのあなたがいる:それらの関係が基本的な心理的単位である。
人の中核にあり、破壊されることのない「しなやかで柔軟な部位」の存在。……。これは人間存在の集合的経験を集約する部位でもあるため、「身体で経験される自分」の元型様式と呼ぶものの基本となる。(中略)親密さを巡っての苦闘はかならず生じる。それが元型レベルでも起こることを受け入れ、理解すれば、集合意識から与えられる導きや資源を受け取って利用することができる。「身体で経験される自分」の中心とつながることで、これらの元型の有する資源が姿を現すのを見ていくことになろう。
……。人間の中にもう一つの自分が発達する。これを「認知で経験される自分」と呼び、これは頭にあって、より社会的−認知的−行動的な言語世界に位置し、決断を下し、意味を決定し、策略を巡らし、評価を下し、世俗的な筋道で動く。〈p.42〉
●「関係を支える私」とは「身体で感じられる私」と、「認知で経験される私」のいずれとも同一視することなく、二つの「私」を同時に抱える経験を言う。〈p.43〉
●クライエントにとってはより真実である視点をあきらかにするために、理論や技法をクライエントが「押し戻す」のをひたすら待つのである。〈p.59〉
●本当の治療とは、クライエントが治療者の方式に従うのをやめて自分の方法を発見した時点で開始される。〈p.58〉
●われわれは他者の期待に添うことはできないという真実を直視しなくてはならないということだ。これは人間としての成長過程で「らくだ」の位相が終止符をうった合図でもある。われわれの人生の最初の部分で他者からの「……でなければならない」「……してはならない」を背中に負って砂漠を歩むらくだであると提案したのはニーチェだったように思う。らくだはつばを吐くことはできるが、自分のために思考したり、言い返したりはできない。しかしらくだが死を迎えると、そこには獅子が生まれる。ししは自分の吠える声を聞き、餌を捕らえるすべを発見する。(中略)らくだの死と獅子の誕生の間の空間を症状が占有する。この限界的位相をうまく通過する上で、治療者は出産の介助役をするのである。
〈p.56〉
   

    

   
★この本にたずさわった編集者として思うのは、精神治療にたずさわるひとが担う根源的困難と誘惑、それはほとんど暗闇に頭をつっこみながら、関係を生きることと同義の仕事だなあとおもいます。クライエントの混乱、暗がりの中心にいかにつながるか、治療者の「関係を支える私」が、その柔軟な中心を養うべく応答をくりかえしたちあがってくるリアリティは、訳者の崎尾さんの、実践者がもつ言葉の力をとおして、目に見えるように感じます。
     

   
●おまえは誰なんだ:著者は、アイルランド系のカトリック信者でありアル中の父を持つ家庭に育った。少年時代始終トラブルをおこしており、その度に父親は怒って私を問い詰めた(そして酩酊の)あげくに、“いったいおまえは自分を何様だとおもっているのだ?”とといかけた。父のこの質問は年月を経た今でも私の内部に深く食い込み、いくつかの答えをもたらし、この質問をどう受け取るかの異なるアプローチを育ててきた、という。〈p.91〉
●愛とは弱く、感傷的で、危険で非倫理的であったり、不適切な感情というように捉える「隔離された」愛の観念は拒絶される。愛とは活発に実行され、成熟した技であり、勇気であり、精霊であり、規律であり、あらゆる治癒の基盤になるとの理解に立ち、それを引き受け、実現しようと努力していく力である。愛とは条件や環境に依存しないものであり、誰でも、いつでもどこでも経験され得るものであり、また用いられ得るものでもある。
 有効な愛を可能にする原則のうち最大のもの、それは成熟した後見作業である。治療者は精神療法を有効なものとするために、愛と、対応する後見原則の重要性を認識したい。有効な後見人とは、「世界における我」と「我の内部にある世界」を結び合わせる「関係を支える自分」を育てるための伝統や訓練方法をわれわれに知らしめる。〈p.296〉
   

   

   
★崎尾英子訳・編・監修書

愛という勇気―自己間関係理論による精神療法の原理と実践

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EMDR症例集

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パッショネイト・マリッジ

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★崎尾英子著書
子どもを支えることば―立ちすくむ家族へ

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