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《新刊》角田忠信著『日本語人の脳』のお知らせ

角田忠信著 『日本語人の脳』 ― 理性・感性・情動、時間と大地の科学
 

 
日本語人は持続母音と虫の音を言語脳のある左半球で受容する。
ところが、現代の言語理解の基準となってきた欧米言語学では、言語基盤にある母音の感性・情動性が理解できない。著者はこの差異に科学的に最初に気づいた。
半世紀にわたって、日本語人の心性、情動のありようを追求してきた、齢90歳に近い著者による畢生の論文集。
 
●本書の著者・角田忠信博士の学説は、発表当時、多くの人たちの関心をひき、高い評価を得ながら、専門家たちからは批判あるいは無視され、葬り去られてきた。著者が提唱した「日本人の精神構造母音説」は、さまざまな誤解をふくんで流布したが、絞りこめば、たった一つの、著者による実証的事実から出発したものだ。
●たった一つの実証的事実とは、欧米語を母語とする人では、持続母音(自然母音)は言語脳が位置する脳の左半球優位では受容されず、右半球優位で受容される(この実験をおこなったのは、著者ではなく米国の研究者である)。言いかえれば、欧米言語では、持続母音(自然母音)は「欧米言語の音声範疇」には入らない。子音―母音―子音といった音節としてまとまって、母音が「音声範疇」の中に入った時だけ、脳の左半球優位で受容される。
●一方、日本語を母語とする日本語人では、持続母音(自然の母音)がそのまま「日本語の音声範疇」に入るため、即座に脳の左半球優位で受容される。日本語人以外で、持続母音を「言語の音声範疇」とする言語系は、著者が確認したところでは「ポリネシア諸語」以外には今のところ見当たらない、という実験実証に過ぎない。
 また自然音、たとえば「虫の鳴き声」を、日本語人は「日本語の音声範疇」と同じ領域の地平で受けとめているが、欧米語人では「雑音」として右半球で聞き取ったり、鳴いていても聞き取れないことが多い。
●著者が提唱した「ツノダテスト」については、厳密な追試の探究がなされずに毀誉褒貶を惹き起こしてきた。しかし、著者の探究は一貫した真理の探究だったことに疑いはない。ツノダテスト以外の方法による実証としては、菊池吉晃氏による脳波と脳磁図(MEG)を用いた実証だけだったが、本書では巻末に掲げたように、著者の子息・角田晃一氏(東京医療センター感覚器センター部長)ほかによって、作動時の脳内血流変化の測定にもとづく新たな実証がおこなわれ、国際的な専門誌Acta Oto-Laryngologica, 2016にその論文が掲載された。これにより、著者の日本語母音論は追試による基礎的な証明を得ることとなった。
 
【主な目次】
序にかえて―私の研究の歩み
本書を読むにあたって
第一部 日本語人の特質―左右脳の非対称性と脳幹スイッチ機構
1.脳の感覚情報処理機構からみた日本人の特徴と今後の脳研究の方向
2.人の脳の非対称性と脳幹スイッチ機構の意義
3.ツノダテスト、新法の開発⑴―打叩する位置によるツノダテストの検討
4. ツノダテスト、新法の開発⑵―脳の機能差をめぐる最近の動向と脳の加温法について
5.左右脳と和洋音楽
第二部 日本語人と脳の情動性
1.ヒトの嗅覚系、情動脳、自律系の非対称性について
2.性機能の脳のラテラリティ
3.脳で行われる自他母音の自動識別について
4.自他識別機構の研究―「母の声」、「母の視線」の優位性
5.脳センサーから見出された新しいシステム
6.脳センサーの反応から推測される時代の変革
7.人脳センサーによる地殻歪みの評価と予期せぬ知見
8.人の脳の非対称性と脳幹センサーの意義―四〇・六〇系、十八日系
第三部 人の脳にある生物学的時間単位と脳センサー
1.人の脳にある正確な一・〇〇〇〇秒の時間単位
2.人脳に見出された生物学的基本時間単位一秒の意義
第四部 対話と反論
1.脳の中の小宇宙―驚くべき脳センサーの話(対話者 峰島旭雄氏)
2.不思議な日本人の脳と日本語の力―われわれの美意識はどこから生まれたか(対話者 林秀彦氏)
3.『日本人の脳』への誤解をとく―P・デール氏への反論
おわりに
【最新報告】Acta Oto-Laryngologica掲載論文の要約
角田晃一氏ほか)
角田忠信著作目録
 
【著者紹介】
角田忠信 つのだただのぶ(1926〜)
東京府中野区生まれ。1949年、東京歯科医専卒(東京医科歯科大学の前身、耳鼻咽喉科)。
1951年に同大学助手、1957年に講師、同年に「鐙骨固着度の検出法」で東京医科歯科大学にて医学博士。
1958〜70年、国立聴力言語障害センター職能課長。1983年、東京医科歯科大学難治疾患研究所教授。
1986年、『脳の発見』で日本文学大賞(学芸部門)受賞。1990年、東京医科歯科大学名誉教授。
 
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既に書評が発表されておりますので、掲載いたします。
 
 
東京新聞書評、2016年5月29日

 
 
週刊読書人書評、2016年7月8日号

 
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